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乳がんと乳房再建

乳がんと乳房再建乳房再建Q&A
乳房を失ってしまったあなたへ 失うかもしれないあなたへ
再建手術について
1:人工乳房を使用する方法
2:自家組織を用いる方法
3:人工物と自家組織を併用する方法
4:乳輪、乳頭の再建
5:可能性のある合併症

乳房を失ってしまったあなたへ 失うかもしれないあなたへ

選択にあたって
あなたがもし不運にも『乳がん』と診断され、乳房にメスを入れざるを得なくなった時、あなたには『乳房再建術』を受けることができるという選択が得られます。乳房再建をなさるかどうかはあなた自身が決めることです。それは決して特別なことではありません。


また、乳房再建はあなた自身だけでなく、家族や親しい友人にあなたが乳がんであったことを忘れさせてくれるでしょう。


あなたが失いかけていたものを乳房再建によって再び取り戻す気持ちがあれば、再建を考えてみてください。乳房再建により、あなたが病気から解放されて日常生活に復帰することが容易になることもあります。


現にこれまで乳房再建を行った患者さんたちは


『家族や友達と温泉へ出かけたい』
『ゴルフ場で汗を流してから帰りたい』
『パットの着用がわずらわしい』
『孫と一緒にお風呂に入りたい』
『水着やラウンドネックのTシャツを着たい』
『将来誰に介護されても同情されないようになりたい』


などの理由で再建を行い、現実にあきらめかけていたこれらの夢を再び実現することができました。
選択の第一歩は再建手術に関して、できるだけ正しく、詳しい情報を得ることです。

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再建手術について

乳房再建には基本的に3つの方法があります。


(1)人工乳房を使用する。
(2)体のほかの部分から皮膚や脂肪、筋肉を移植する。
(3)人工物と自分の組織の併用。


あなたが受けた乳がん手術の大きさ、残存した組織の量、放射線照射をしているかどうか、反対側の乳房の大きさ、形などが、どの方法を用いるかの目安になります。またあなたの体型、職業、趣味なども方法を選択するのに重要な要素となります。


『テニスが大好きだから、手術が終わってできるだけ早くテニスをしたい』
『着付けの先生をしているので、着物を着る上で背中が凹むのは絶対に困る』
『子供が小さいので入院はできない』
『反対側の乳房が大きすぎて肩がこるので、この際反対側も小さくしてほしい』


などなど、自分にとって大切なこと、譲れないことは必ず主張してください。
まず胸のふくらみを作り、乳輪乳頭が切除されている場合は最後にこれらを形成します。
乳房再建は患者さん一人一人で方法が異なることが考えられます。


『同じ病室のあの人ができたから、私も…』
『患者会のお友達がうまくいかなかったから、私もきっとダメだわ』


と考えないでください。形成外科医があなたの色々な要素を考慮した上で、あなたにとって可能な方法を提示してくれるはずです。そしてあなたにとって最良な方法をあなた自身が選択してください。

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人工乳房を使用する方法

組織拡張器(ティッシュ・エキスパンダー)+
人工乳房(ソフトコヒーシブシリコン)による再建法

適応となる例:
乳房温存術、皮下乳腺全摘術、非定型的乳房切除術後
第一段階

大胸筋が残っている場合には、まず組織拡張器(ティッシュ・エキスパンダー)が用いられます。この手術法では残った組織が徐々に伸ばされていくので、反対側の乳房につり合う大きさ、柔らかさの人工乳房の挿入が可能になります。


全身麻酔下で乳房切除の傷跡に切開を加え、皮膚と筋肉の下にしぼめた風船状のエキスパンダーを挿入します。(エキスパンダーを乳房切除術と同時に挿入されることがあります。これを一期再建といいます。)再び傷を縫い合わせ、エキスパンダーに滅菌した生理食塩水を注入します。手術は30分弱で終わります。


この手術が人工物による乳房再建手術のすべての過程で一番痛い手術です。特に、乳がん手術から長い期間がたっている場合や、筋肉は残っているものの脂肪や組織の少ない人、放射線照射をされているケースでは特に術後の痛みが強く出ます。しかし遅くとも1週間後の抜糸までには和らいできますので、それまでは痛み止めを使って耐えていただくしかありません。


この方法は健康保険の適応を受けているのですが、保険の適応になっている薬事承認済のエキスパンダーは15年以上前に作られたもので、既に欧米では新しいエキスパンダーが使われています。当然のことながら新しいタイプの方が痛みも少なく、できあがりも柔らかくきれいなのですが、未だ日本では薬事承認がされておらず、これを使用する場合は健康保険は適応されません。

第二段階

1週間後に抜糸し、さらに1ヶ月後から生理食塩水の注入を行います。注入は1ヶ月に1度、外来で行います。注入量も期間も特に決まりはありません。


スケジュールに合わせながら、痛みを感じない程度に水を入れていきます。反対側の乳房の大きさにもよりますが、通常は6ヶ月くらいで反対側より少し大きいくらい膨らむことになります。この拡張を行っている間も、患者さんは日常生活に支障は来たしません。仕事もスポーツも旅行も行ってください。


ただ、エキスパンダーの生理食塩水注入部には注入用の針が突き抜けないように大きめの金属板が入っていますので、エキスパンダーが入っている間はMRI検査はできません。

第三段階

反対側より大きくなったらエキスパンダーを抜去し、人工乳房(ソフトコヒーシブシリコン)を挿入します。エキスパンダーがきれいに入っていればこの手術も30分程度で終わりますし、痛みはほとんどありません。


しかし手術中は、患者さんの体を何回も起こして、用意してある人工乳房を入れては左右の対称性を確認しているのです。もちろんこの間、患者さんは眠っているので知る由もないのですが…


第一段階のエキスパンダー挿入も、シリコンの入れ換えも全身麻酔といっても、乳房切除術のときのように気管に管を入れることもなく、麻酔科医が点滴から入眠剤を使用し、手術中はマスクで呼吸管理をしてくれるので、鼻にチューブを入れたり、尿の管を入れることもありません。


術後リカバリールームに戻られる頃には目がさめて、トイレも御自分で行っていただきます。
よって日帰りは十分可能です。


シリコン入れ換え手術は健康保険は適応されません。これらについては専門医にお尋ねください。

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自家組織を用いる方法

腹直筋皮弁法
適応となる例:
定型的乳房切除術後、本人が希望する例

この手術法は定型的乳房切除術により多くの皮膚と筋肉が欠損した場合や、人工物を使うことに抵抗があるケースに用いられます。


垂直に走る腹部の二つの筋肉(腹直筋)のうち一つまたは両方の一部に腹部の皮膚、脂肪をつけて回転移動させる方法と、筋肉の中の血管だけを見つけ出し、これに腹部の皮膚、脂肪をつけて一度切り離し、脇の下や胸の血管と顕微鏡下で血管吻合して移植する方法があります。
どちらの方法も下腹部を横断する長い傷が残ること、お腹の皮膚をつまんだような圧迫感、締め付け感がしばらく続くことは変わりません。


この方法はすべての方法の中で最も体力的な負担が大きく、入院は2週間から4週間必要になります。通常の生活に戻るまではさらに数ヶ月を要するでしょう。


リスクとしては、まれに血管がうまく開通しなかったり、移植した皮膚や脂肪の血の巡りが悪く、一部や最悪の場合はすべてが壊死に陥ることがあります。肥満の方、腹部に帝王切開などの手術をしたことがあり傷が残っている方、糖尿病、高血圧といった持病がある方、そして何より喫煙者はそのリスクが非常に高いと思ってください。


またこの方法は手術をする医師の経験、センスに大きく左右されるといっても過言ではありません。移植することは可能でも、左右対称な形を作ることは非常に難しいのです。手術を受ける前に『経験は何例くらいあるか?』をきちんと尋ね、できれば今までの患者さんの写真を何例か見せてもらうようにするとよいでしょう。


よって自分自身がよほど大きな決意がない限りはやるべきではありません。しかし、うまくいけばできあがった乳房はとても柔らかく自然な感じがします。

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人工物と自家組織を併用する方法

広背筋皮弁法
適応となる例:
非定型的乳房切除術後で脇の下の凹みが著しい例、放射線照射例、定型的乳房切除術後

この手術法は、根治的な手術により大胸筋と広い範囲の皮膚に欠損を来たし、鎖骨下や脇の下に凹みができてしまい、人工乳房だけでは覆えない場合や、皮膚の放射線照射によるダメージが著しく、エキスパンダーによる伸展ができそうもない例、大胸筋は残っていても、皮膚が薄かったり、胸部の凹みがひどくて肋骨が浮き出ているようなケースに用いられます。


広背筋とは読んで字のごとく背中にある広い筋肉ですが、どんなに太っていても背中に胸を作るだけの脂肪がついている人はいないため、腹直筋皮弁と異なり、広背筋の筋肉自体が乳房を作る主体となります。しかしこの筋肉だけで乳房を再建するにはいささか分量が足りないことが多いこと、また筋肉というのは廃用性萎縮といって、使われなくなると萎縮してしまうため、乳房に移植されて必要な機能をしないと後から乳房が小さくなってしまうことから人工乳房を併用する必要があります。


技術的にも体力的にも腹直筋皮弁よりもはるかに簡単な手術ではありますが、背中に傷が残ることには変わりません。また、筋肉を採取すると術後出血や浸出液が溜まるため、術後には背部にドレーンと呼ばれる管を入れることになります。


基本的には1週間程度の入院が必要ですが、背中の痛みは思いのほか少ないため、最近では通院が可能な距離であれば日帰りでやることもあります。

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乳輪、乳頭の再建

乳房のふくらみが再建されて数ヶ月を経てから、乳輪、乳頭の再建を行うことが一般的です。
乳輪乳頭は乳房の顔のようなものですから、位置が少しでもずれるとおかしくなってしまうため、乳房の大きさ、形が落ち着いてからの方がよいでしょう。


乳輪の再建には

(1)Tattoo(刺青)
(2)健側からの移植
(3)鼡径部からの移植

があります。


Tattooは反対側と同じような色のインクを作成し、針で皮膚を染めてゆくものです。外来で数十分程度ですが、平均2、3回行います。これは医療行為として認められておらず自費がかかります。

乳頭の再建には

(1)健側からの移植

(2)局所皮弁法

どちらも局所麻酔で可能です。健側からの移植は乳管組織と神経が移植されるため、痛みも感じつまみ出せば突出する乳頭が再建できます。健側は少し小さくなりますが、感覚も変わりませんし傷は全くわからなくなります。


健側に採取するだけの大きさがない場合や、健側をいじりたくない方、両側の再建を行っているケースでは、再建された乳房の皮膚を星型に切って組み立てる局所皮弁法(Star flap,Skate flap)が用いられます。この方法だと、皮弁の中身が伸展された脂肪になるため、支柱が柔らかく、ブラジャーの装着やうつぶせ寝でつぶされると、平坦化することがまれではありません。乳頭の再建には健康保険が適応されます。

Star flap

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可能性のある合併症

すべての手術と同様に、乳房再建にも危険はあります。手術をする前にあなたは可能性のある合併症や副作用について、担当医と相談すべきです。


(1)炎症、感染

人工乳房でも、自家組織でも炎症、感染のリスクはあります。しかし、これが起こった場合は人工物のほうが深刻といえるでしょう。人工物の中でもエキスパンダーの挿入中に起こりやすいのが特徴です。


きっかけとしては、身体、精神への大きな負担、ストレス、疲労、感冒などです。ある日、エキスパンダーの入っているあたりが赤くなったり、熱感を持ったりしたら、まず自分が心身ともに疲れていないかを考えてください。そして局所を冷却して栄養と休養をとり、すぐに専門医の診察を受けてください。そうすればたいがいの場合は大事にいたらずに治ってしまいます。


しかし『家にある抗生剤を飲んだから大丈夫』とか、『近所の先生に点滴してもらったから』というのでは、逆に本当に感染を起こしたときの耐性菌を増やすことにもなりかねません。
どんなに仕事が忙しくても、どんなに専門医が遠方でも、それを第一に考えられないのであれば、最初から再建を始めてはいけないのです。
特に抗がん剤の点滴を受けている方や放射線照射を受けている方は注意が必要です。


本当に感染してしまうと人工物を取り出さない限り、感染は治まらないことが多いです。放っておくと、皮膚や大胸筋が融けてエキスパンダーが露出することもあります。しかし、万が一そうなったとしても、『人工物で二度と再建ができない』とは思わないでください。あなたさえ諦めなければ、数ヵ月後感染が治まってからもう一度トライすることはできるのです。


(2)被膜拘縮

異物である人工乳房の周囲には人工物に対する自己防衛反応として被膜(カプセル)が形成されます。そしてそれがさらに硬くなって締め付けられそうになることを被膜拘縮(カプセル・コントラクチャー)と呼ばれる問題がありました。


その被膜は野球ボールのように非常に硬く変形し、痛みが生じることもありました。そうなると手術によって被膜を解除することが必要になってきます。
最近の保険がきかないテクスチャー・タイプのエキスパンダーとソフトコヒーシブシリコンが用いられるようになってからは、被膜拘縮を起こす頻度は格段に減少しました。


しかし、下記のような条件の方にはまだまだ被膜拘縮は起こるのです。

▼組織伸展中に炎症、感染を起こしたことのある例
▼放射線照射例
▼エキスパンダーを入れている期間が短かった例
▼スムースタイプ(保険適応)のエキスパンダーを挿入していた例
▼術後の出血や浸出液の貯留が多かった例
▼喫煙例


(3)皮弁壊死

腹直筋皮弁を行った例では、皮弁が移植した皮膚や脂肪の血のめぐりが悪く、大きな領域が壊死したり、また一部の皮膚や脂肪が生着しないこともあります。脂肪が壊死に陥ると、黄色い液体となってタラタラ流れ出てこれが感染の原因となったり、逆にミイラ化して固まって乳がんの再発と間違えられたりすることもあります。


もともとの乳房が大きい場合や、定型的乳房切除術などを行っていてたくさんの組織を必要とするために、大きな皮弁を採取しようとする際に起こりやすいのですが、壊死しやすい要因としては


▼肥満
▼腹部の手術歴
▼喫煙
▼高血圧、糖尿病


といった患者さん側の原因と、デザイン、血管吻合の不具合など術者側の原因もあります。
よって医師の再建の経験を聞くことはとても大切なことです。


また、一期再建でエキスパンダーを入れた場合、乳房切除後の皮膚が血行障害を起こし、壊死になってエキスパンダーが露出することがあります。
特にがんがあった付近は、外科医ががん細胞を取り残さないように周辺の組織をたくさん取っています。結果として皮膚が非常に薄くなり、血行不全を起こしてしまうのです。


(4)非対称

人工乳房は現在も尚、輸入品に頼っている状態ですので、その中から健側と全く同じ大きさ、形のものを選び出すのは至難の技と言えます。よって全く対称的になるのはもともと不可能ですが、何らかの原因で再建を早めなければならなかったり、これ以上生理食塩水が注入できなかった場合、また被膜拘縮が起きてしまった場合は非対称になることが考えられます。


また、人工物であれ自家組織であれ、再建から日にちがたてばおのずと健側は年をとってゆき、それに対して再建側は変わらないため非対称が起こって、どちらかに何らかの手を入れる可能性もあるということは考えておかなければなりません。

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あなたがこれを読んで、もし乳房再建術を受けてみたいという気持ちになられたら、形成外科医に相談してみてください。
その医師がきちんとした専門医であり、乳房再建の経験も豊富であれば、あなたの受けた、またこれから受ける乳房切除術とその結果に応じて、あなたの最も適した方法をアドバイスしてくれるでしょう。

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